自主経営とは

自主経営とは何か?【フレデリックラルー氏動画④要約】

「自主経営とは何か?」と題して、「ティール組織」著者のフレデリックラルー氏による動画の要約をお届けします。

フレデリックラルー氏は書籍のほかに、100を超える動画を公開してくれています。本記事では、その中の「シリーズ4-1. ​自主経営とは何か?」の要約をご紹介させていただきます。

ぜひご参考にされてください。

▶元の動画「​(Mis)understanding self-management」はこちらから

▶ティール組織を実践するためのティール組織診断マップはこちらから

 

自主経営とは何か?

セルフマネジメント(自主経営)の捉え方は幾つかありますが、たいていの人は「セルフマネジメントとは物事をより良くオーガナイズ(組織する)こと」であると考えているようです。組織で働く人々にもっと決定権を与え、より良い決断が可能になれば業務が円滑に進み、社員のモチベーションが上がったりとうまく回るようにすること。セルフマネジメントをエンパワーメントのように捉えるのが主流のようです。

もちろんそういう捉え方でいいと思いますが、私は少々違う風に捉えています。それについて話してみたいと思います。一つは「セルフマネジメント=より良く組織すること」ではなく、「セルフマネジメント=組織する唯一の方法」という考え方です。従来のヒエラルキー(階層)的なマネジメントの中心にあるのは、“誰かが誰かの上に立つ”、という考えです。仮に私があなたの上司なら、私はあなたより上なので、あなたの提案や昇進や雇用などにおいて私が決定権を持つわけです。一方、セルフマネジメントにはそういう考えはありません。

「誰かの上に立つ」のではなく「誰かと一緒に」という考えなので、ゼロサムゲームは成り立ちません。従来のやり方は、誰かに権力がある分、ほかの者に権力はないわけですが、セルフマネジメントにおいては、あなたが力をつけることが私の力にもなっていくという考えです。あなたが組織の目的のためにイニシアティブをとり行動的に動くことで様々な機会が生まれ、それが私の行動に繋がっていく。このように、セルフマネジメントにはパワー(権力)の捉え方に革新的な違いがあります。

私は、二度と権力を振りかざす者の下に身をおきたくないし、セルフマネジメントが実現できることだと知った以上、権力的なやり方に愕然とします。そしてまた、自分が誰かの上に立って権力を振りかざすこともしたくない。醜いことだと思うのです。私たちの歴史から考えても、自然な感覚です。人類史の98%くらいは、階級のない小さな社会で生きてきました。年配や知識人の知恵を借りることはあっても、誰かが支配することはなかった。ヒエラルキー的な社会になったのはここ数千年のことで、総人類史の小さな部分です。

故に、権力に支配された社会は感覚的に不自然なものです。階級というものは、とても醜い合理化が必要です。組織の上に立つ者は、そのようにふるまうために、自分が他より優れた人物である、と我を正当化しなければならない。自分は他より賢いとか、もっと仕事しているとか、遺伝子的に優位とか、何か自分と他を隔てる理由を見出して、上に立つことを正当化する。醜いことです。逆の場合もそうで、もし私が誰かの下なら、自分は劣っていると思ってしまうし、そう思わされる。実際、多くの組織では職位の高い者に“ステータス”を与えて優遇する。そうすることで、階級をリアルなものにし、この不自然なシステムを維持しているわけです。

私はよく給料のあり方について考えます。組織では、上に上がるにつれて給料も上がります。劇的に上がります。5倍、10倍、20倍、400倍、人より多くもらっています。この不自然な制度によって、自分はどんなにか重要な人物で、逆に底辺の者はいくらでも替えがいる、という感覚になってしまう。いっそ、逆にしたらいいんじゃないでしょうか。退屈な、同じことの繰り返しという苦痛な仕事にはたくさん支払う、という風に。

工場作業みたいな仕事は大変なので、彼らはCEOより多くもらっていいと思います。あんな大変な仕事を引き受けるCEOはいるでしょうか?給料を二倍にするからと言われても引き受けるCEOはいないでしょう。一番重要性の低い、充実した仕事は安く、面白味はないのに大変な仕事は高く支払われる方が理にかなっている気がします。もっと言えば、必要性のある者ほどお金を受け取ればいいのですが。子供を4人抱えていたり老いた母親を世話している人は、私よりお金を必要としているでしょう。これは究極の合理性であって、いつかはそこに到達すると思うが、現段階では、組織が自主経営スタイルに切り替わりつつあるとはいえ、給与はまだまだ能力給ベースですし、何事もすぐには変わらないでしょう。とはいえ、セルフマネジメントがもたらすモラルやインテグリティ面での真っ当さは、働きたいと思える組織にする唯一のやり方だと私は思います。

三つ目の捉え方は、「セルフマネジメント(自主経営)=最も自然な組織の仕方」です。先ほど言ったように、階級があるのは歴史でもほんの最近のことです。そんなことはない、階級は常に存在してきたし今さら不自然なことでもない、と言う人があるかもしれませんが、現にヒエラルキーのなかった歴史の方が圧倒的に長いわけで、その方が自然な形なのは確かです。さらに言えば、生命そのものが自主経営によって永らえてきたわけです。つい最近、前に書いたものを見つけたのですが、それがなかなか上手く書けているので読んでみます。

「セルフマネジメント(自主経営)は決して新しい概念ではない。生命がこれまで行ってきたやり方であり、私たちの理解を超えた美しく複雑な生態系を創り上げてきた仕組みである。カオスと背中合わせの秩序の中で生命は進化してきたのである。地球生態系もヒトの身体も脳も全てそうやって機能しているのだ。複雑適応系は確立した科学であり、実はこれまでの単純系を基にしたニュートン的科学観を置き換える、21世紀の科学観であると考えられている。セルフマネジメントもこの複雑系の考え方からきている。」

ですから、セルフマネジメントがしようとしていることは、自然そのものが運営してきた仕組みを学び、それを私たちの組織に活かすことだと思っています。

以上のようなことが何かを考えるきっかけになれば幸いです。セルフマネジメントをもっと単純に「より良く組織すること」と捉えたければそれで構いません。ただ、それに加えてもう二つの捉え方をここでは紹介しました。一つは、権力的な組織を脱する意味で「唯一の組織の仕方」であり、もう一つは生命を育んできた「一番自然な組織のやり方」であるという視点です。

 

セルフマネジメント(自主経営)はなぜ?から始める

以前、「組織をコンセプト化することはやめた方がいいし、それが目標になってはいけない」と伝えたことがあります。「ティール組織にしたい」と言ってくる人がいますが、私は即座に「ただそういうコンセプトになりたいのですか?概念的なものじゃなく、何をどうして変えたいのか、もっと具体的に聞かせてください。」と返します。セルフマネジメントでも同じことが言えます。ある日突然「セルフマネジメントに切り替えましょう」と社内に通知するリーダーを見かけますが、これはコンセプトが先に立ってしまっているものです。常に「なぜ」そうするのか、から始めるべきです。何を達成したくて、セルフマネジメントがどう役に立つのかを考えるべきです。コンセプトから入って、「セルフマネジメントを始めましょう。」と言われても、皆わけがわからず、また何か新しいことを押し付けてきたと思われて強い抵抗を受けるでしょう。そこからセルフマネジメントの是非について哲学的な思案に陥るような結果に終わってしまいます。

まず組織にとって「なぜ」セルフマネジメントが必要なのかについて考えを固め、それを社内で共有し、よく話し合うことをおすすめします。セルフマネジメントの必要性を明確にする際に重要なポイントが二つあります。一つは組織の本来目的で、もう一つはそれぞれが抱えている様々な思い込みです。セルフマネジメントの意義を組織の本来目的に沿って考えるのは有効です。病院を例に考えてみましょう。患者の回復や健康維持が組織の目的であり、そのためには看護師や医師との信頼が不可欠です。ただ、官僚的で面倒くさい色々なことが患者のケアという目的を阻んでいたりします。そこで、看護師や医師との信頼を向上する施策として自主経営を取り入れる。別の例を考えましょう。大きなビジョンを掲げたエネルギッシュなスタートアップ企業で、今はいいけれどやがて会社が成長して組織が大きく複雑になったときに、全エネルギーを組織の目的に注ぎ込めなくなることが懸念される。セルフマネジメントが具体的にどんな解決策をもたらすかはわからないが、組織の方向性を変革しておく必要があると感じている。以上は単なる例であって、それぞれの組織で事情は違うわけですが、いずれにおいても、現状の組織を改善しなければならない理由を突き詰めて考えると効果的です。

二つ目はセルフマネジメントを組織に根付いた様々な思い込みと結びつけることです。これについては以前ビデオで組織に根付いた思い込みをセルフマネジメントの価値観と比較する話をしたので、これも参考にしてもらえたらと思います。従来の経営観に深く根付いているものは悪いものも多いです。現場の人間は信頼できないとか、あまり賢くないし誠実でもないので、注意深く幾層にも渡って決定を承認するとか、仕事の進捗や公正さを監視するための施策を用意したりと、気分の悪いものです。セルフマネジメントではもっと信頼を置いたやり方に変えるので、比較すれば明らかに従来の悪い思い込みは変える必要性が出てきます。大半の社員は信頼してもらうよう努めるし、そう認められたいわけで、そうでないほんの数パーセントを摘発する施策を見直すことに繋がるでしょう。

セルフマネジメントを取り入れようとする際にはその意義を明確にし、咀嚼されるまでよく話し合うことをおすすめします。セルフマネジメントというコンセプトは便利で役に立つものではあるけれども、それを導入することがゴールになってはいけません。「なぜ」それが必要なのかを繰り返し説明し、理解してもらうことこそが大切だからです。

大切なことをもう二点。自分の考えを共有する際は頭だけで伝えるのでなく、頭、心そして直感的なものを使って話すことと、親身な伝え方を心がけることです。話す相手によって伝え方を工夫し、わかってもらえるよう努めてください。セルフマネジメントという考えがそもそもピンと来ないマネージャーもいます。管理者というのはあまり面白い仕事でもないし、常にプレッシャーが付きまといます。部下には仕事をさせなきゃ、上には良く見られなきゃ、と悩み、業務のほとんどは資料作りや会議への出席に費やしているマネージャーが多くいるわけです。セルフマネジメントはこういう管理者がもっと能動的に組織の目的達成に寄与していくことを励ます仕組みです。また現場で仕事する人たちには彼らの重要性を伝え、組織改善への参画に積極的になってもらえるように説明します。従来の組織構造では吸い上げられなかった現場の良いアイディアを経営にいかすための新しいやり方について話すのです。

以上、今回は「なぜ」組織にセルフマネジメントを取り入れようとしているのか、理由を深く掘り下げ、それを社内で話し合うことの大切さについて話しました。

 

あらゆる「段階」における自主経営

「セルフマネジメントが浸透するには組織にいる者が既にティール組織的な考え方を持っている必要があるんじゃないですか?」という質問をよく受けます。幸運にもその必要はない、というのが私の答えです。ティール的に組織している、あるいはずっとしてきた組織は多く存在しますし、組織にもいろいろな人がいて、多様な考え方を持っています。今回は珍しく成人発達や意識の段階などについて触れます。本に書いた段階やカラーなどの話についてある程度理解いただいている前提で話します。こういう類の話が苦手な人は今回は飛ばしてもらっても構いません。

まず誤解を解いておきましょう。セルフマネジメントでは各人が常に責任感を持って能動的に新しいことに動いていると考えている人がいますが、そんなことはありません。多くの人はルーチン業務をこなしているわけです。機械を使って作業しているとして、機械が古くなったらあなたが率先して動き新しい機械を買わないといけないということはありません。もちろんしたければそうすればいいし、素晴らしいことです。それをする人もいれば、他人に任せておこうというようなタイプもいるわけで、それは当然です。

その上で、様々な価値観にセルフマネジメントがどのようにフィットするか考えてみましょう。ある組織がセルフマネジメントに切り替えたとします。大きな変化です。しかし、最終的には組織に属する誰もが新しいシステムに馴染み仕事していけるのです。例えば、古典的な考えを持つアンバータイプの人にとって、しっかりとした組織構造があること、事態が予測ができること、事態をコントロールできることは非常に重要ですが、これらはセルフマネジメント的な組織でも何ら変わらず保っていけることです。新しいルールや構造がきちんと理解され、カオスになることなく実施できると思えれば、彼らはこれまでのように仕事を進めていけます。ですから、私は新しいやり方はしっかりと説明することが大事だと強調するのです。変更点が不明瞭で混乱すると感じてしまうと特にこのタイプの人間はとかく神経質になりますが、しっかりと理解できていれば問題なく業務にあたれるはずです。

オレンジタイプの人間は競争心に燃えているので、セルフマネジメントにおける新しいルールを説明し、やる気を起こさせてあげたらいいでしょう。皆さんよく見落としているのが、自主経営の職場では健全な競争を実現することが可能である、という点です。自分の価値や成果を認められるには、有能で周りを助ける人材になることが大切であって、それはアドバイスプロセスやスキルを活かしてそれが提供できれば周りからは評価されます。こういった競争を楽しむ人もいるわけで、またそれは健全でポジティブな競争です。さらに、グリーンタイプの人にとっては、セルフマネジメントは素晴らしい組織のあり方です。権力を振りかざすのではなく力を合わせて仕事ができるし、ヒエラルキーのない、意見の尊重される場なので、グリーンタイプの人にとっては嬉しい変化です。

結論として、私は「セルフマネジメントはどんなタイプの人でも受け入れられる仕組み」だと思います。ただ、誰しもが能動的に自主経営に参画するわけではありません。多くの社員にとっては、もし自分が会社の社長やCEOだったなら従来の階級的なやり方の方がわかっているのでそれを選ぶでしょう。でも、組織のリーダーがセルフマネジメントに切り替え、参画を促したなら問題なく仕事していくことでしょう。新しい構造や導入事項が明確に理解されたなら、新しい変化が上手く機能していくことは多くの組織で実証されています。

 

 

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