ティール組織は自己修正する

自主経営の核心は自己修正【フレデリックラルー氏動画④要約】

「自主経営の核心は自己修正」と題して、「ティール組織」著者のフレデリックラルー氏による動画の要約をお届けします。

フレデリックラルー氏は書籍のほかに、100を超える動画を公開してくれています。本記事では、その中の「シリーズ4-1.自主経営の核心は自己修正」の要約をご紹介させていただきます。

ぜひご参考にされてください。

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自主経営を理解するのに基本的なことをお話します。従来のやり方の中心には階級的な考えがありますが、自主経営の核心は自己修正という考えです。これを理解するには長い学びのプロセスが必要ですが、なるべくわかりやすく話します。従来の感覚からすると良い組織とは問題なくスムーズに動く機械のようなものです。そしてリーダーの役割はそうなるようにしっかり管理すること。問題となり得るあらゆることを予測し、また問題が起きないようにすることです。そのため、そういったリスクマネジメントには多大な労力をかけます。そしてまた、問題が発生した時には、問題に対処するのがリーダーの役割です。そして事態が収拾すれば、同じ問題が二度と起こらないように施策をする。そうして官僚的なやり方が増えていくわけです。これが従来の組織管理です。

組織をマシーンではなく生きたものと捉えてみてください。生き物は常に変化しています。体内も周りの環境も常に変化します。そこで根底にある考えは、全てスムーズに物事が運ぶということではなく、何か変化を感じたときに速やかに適応すること、環境の変化に適応するために常に自己修正を行うことです。そこでは、命を左右する重大リスクについて対策することはあっても、起こり得るあらゆる問題について一つ一つ考えを巡らすということはありません。それよりも変化を感じ取ること、それにすぐさま自己修正して応答することが大切なのです。

あるチームに問題が生じた時に、どこかからマネージャーがやってきて問題解決をするのではなく、チームが問題を感じて即座に修正することが望ましいわけです。生命が適応し応答するのと同じように。しかしこれは自動的に起こることではありません。前回のビデオで、「自主経営って要は信頼を置くことでしょう」と言うのは少し短絡的であると話しました。信頼という土壌の上に、組織が自己修正を常に可能にするための構造や仕組みが必要であると言いました。

組織が自己修正できるようにするには三つの基本要素があります。一つ目は心理的なオーナーシップ(所属・所有の意識)、単純に言えば組織を大切に思っているということです。これは基本的にはどんな組織にも備わってるはずです。たいていの人は組織のためにいい仕事をしたいと思っています。職場での問題やボスとの人間関係から組織を嫌いになりオーナーシップがなくなるなど特殊なことも生じますが。社員がこのオーナーシップを十分に持っていないと言えるならば、自主経営に切り替えるのは時期尚早です。二つ目に組織の誰もが自分の仕事の成果を直接感じる必要があります。つまり、みなが自分の担当業務が生む良い効果も悪い効果も直に感じられることです。

驚くべきことに、現状は、従業員が自分のする仕事の影響を感じられないことが多いのです。例えばチームの士気が下がって、効率が下がったとします。多くの場合、誰もその非効率性が生んだ損失を感じることはありません。別の部署が下降するパフォーマンスに気付いて指摘し、マネージャーの誰かが干渉しにくる。チームが自ら感じ取って自己修正することはありません。チームの仕事の成果を把握し、質が落ちてきたら自ら立て直して誇らしい仕事をしたいが、仕事を実感しにくいシステムになっています。ここをもう少し掘り下げましょう。チームが自己修正するには三つのポイントがあります。一つは「良い仕事」が何かをチームで共有していること。

二つ目はリアルタイムに仕事に対するフィードバックを得られること。三つめはチーム内で仕事のパフォーマンスについてフィードバックと照らし合わせて話し合う場があることです。

さて、基本要素の三つめは、組織の全員が変化を起こす権限を持つことです。何か必要性を感じたときにそのアクションを取る権利です。自主経営におけるマインドの置き方の根本的な違いと自己修正の必要性について話しました。自己修正に必要な要素は、心理的オーナーシップ、個々が仕事の影響を感じられること、そして個々がアクションを起こせる環境であることを話しました。

 

自主経営の自己修正システムの具体的な事例

自主経営の鍵は自己修正であることを話しました。今回はそれをもっと具体的に理解するために6つの状況を考えたいと思います。自己修正を組織で実践するための具体的なステップをとる際の参考にしてもらえればと思います。

前回、自己修正の必須要素の二番目として「個々の仕事の影響が直に感じられること」を挙げ、またそれにはさらに「良い仕事とは何か共有する」、「仕事のフィードバックをリアルタイムに得る」、「それについてチームで話し合う」という3つのポイントが重要であることを話しました。

次の6つの状況を考えてみましょう。①あるチームのパフォーマンスが下がった。外部からの介入なしにチームが自ら立ち直すにはどうしたらいいか?②業務の量がある特定のチームに偏ってしまっている③顧客が仕事の質や納期ペースに不満を抱いている④革新的なプロジェクトを進めているうちにどんどん成功の見通しが立たなくなってきた⑤次から次へと設定される会議が時間の無駄に感じる⑥人事や品質管理や監査などといったサポート業務に価値を感じられない。

一番目の例から考えましょう。一つの対処方法はデータを見ることです。Buurtzorgでは毎月チームの成果を定量化してランキングにし、全体に共有しています。またある一定水準を設け、それ以下を要注意パフォーマンスレベルとすることで、チームはどの水準にあるかを確認できます。10人~12人から成るチームが、それぞれの結果を基にパフォーマンスを話し合います。これは先に話した3つのポイントですね。そして、Buurtzorgにはコーチがいてチームのパフォーマンスをサポートします。

二番目の状況を考えましょう。従来の組織ではこういった状況に柔軟性がありません。是正しようと思えば、時間もかかり複雑な手順を踏むことになります。自主経営の場合はどうでしょうか。フランスのFAVI社では自動車各社の製造ラインに立つチームが毎朝ミーティングを行い、その日の業務量に応じてチームのヘルプを募ります。日々変化する要求量にこのように会議コミュニケーションによって対応しています。ある病院でも看護師が3か月あるいは半年毎にミーティングをし各チームの業務量の変化を確認します。

三番目の状況を考えましょう。これは特定のチームが顧客にあたるので構造の変化を伴います。先ほどのFAVI社は社員600名ほどの北フランスにある自動車製造会社で、ユニークな勤務体制を取っています。1993年に自主経営システムを取り入れる前は、人事が二週間おきに受注を基にマスタープランを作り、それに沿って社員が各勤務ユニットに配属されていました。そして勤務前日になると製造工程の詳細な確認をし、それそれ勤務にあたっていました。社員は言われた製造ラインに立って指示された勤務内容をこなすので、顧客や仕事の全体像はブラックボックス化されます。これでは製造ラインに立つ者には自分のアウトプットの影響は良くも悪くも感じられないわけです。そこでFAVI社は組織構造を根本的に変えて小さな工場の集まりのようにしました。営業担当もチームの一員となりました。チームは注文を受けて納期を話し合い、全員で納品にあたるのです。これによりFAVI社は30年近くも納期を遅らせたことはないそうです。組織構造を変えることによって、各チームがプライドを持って仕事にあたるようになりました。

四つ目の状況を考えましょう。従来の組織ではアクションをとるのが難しい状況です。皆、懸念事項は報告しづらいために全てうまくいっているように進め、あるところでどうしようもなくなったりします。半年や一年経って介入し修正しようとしても遅すぎることがあります。何かおかしいと思った時にすぐに修正をすることが重要です。一つできることとして、簡単なことですが、プロジェクトが嫌になったら辞退するというルールを作ります。Valve社は世界的なコンピュータゲームの開発会社なので常時大きなプロジェクトが動いています。彼らはプロジェクトに不安を感じたらすぐにチームから抜けるように、というルールがあるので、僅かな暗雲も目に見えるようなります。特に救済措置があるわけでもないので、人が去ってしまうとプロジェクトは頓挫してしまうわけですが、本当に価値あるプロジェクトであれば誰かが声を上げ、またチームができ、別の形でプロジェクトが進んでいきます。私が調査した水力発電部品をつくる会社でも、同じようにして本当に価値があると感じるプロジェクトだけに取り組んでいるそうです。

五つ目の無駄な会議についても同じことが言えます。意味のある会議に思えなければ出ていって構わないという風にすればいいと思います。その会議の中に意義のあるトピックが含まれていれば、それだけを対象にした会議を持てばいいでしょう。6つ目のケースでも、必要なサポート業務だけを続ける、と決めて話し合いながら内容を見直せばいいでしょう。不要なものは廃止されます。例えば機械の担当者が新しい任務を任されたとして、仕事のアウトプットを毎週定期的に発表します。これも会議の参加者の出席や態度でそれが需要のある仕事か判断できるでしょう。自分の担当するサポート業務が不要となれば、必要なサポート業務に切り替えればいいのです。大切なのは変化を感じ取って、それに速やかに対応するシステムをデザインし構築できるかというところです。

 

自己修正における意思表示

前回話したように、システムの自己修正を促すのに効果的な方法の一つに、参加を辞退することによる意思表示があります。この点はもう少し説明が必要なので今回詳しく話します。従来の組織において、行きたくないからと言って会議を欠席することは許されませんね。仕事の意義や必要性は決められていて、それをこなすのがあなたの仕事だからです。自主経営では仕事は強要されるものではないので、やりたくなければやる必要はありません。誤解はしないでください、「退屈だからもうやめた」といったようなことではありません。自主経営では個々が積極的に仕事を担っているので、たとえ退屈でも意味のあることであればやる、という考え方です。

つまり、業務するにあたって、この仕事はあまり意味がないのではないか、これの代わりにあれをやることの方が組織目的に有意義ではないか、と思った時に、今の仕事を終わりにすることは許されていい、というよりは、むしろ積極的にそうあるべきです。なぜなら、参加したくない、と思った時は状況が小さいけど重要なサインを発しているからです。この小さなシグナルというのはあまり語られてはいないけど特殊なもので、どんな問題も最初は僅かな信号を発して、問題が大きくなるにつれてシグナルが大きくなります。このシグナルが小さい段階で察知し、修正することは大きな問題になることを防ぐのにとても大切なことです。現状の組織では、小さなシグナルを感知してもそれが階層のどこかでかき消され、目に見える大きな問題に肥大化してしまって、やっと対処しようとするけれども、その時には非常に痛い修正を伴ってしまいます。

僅かなサインを拾って直感的に何かおかしいと感じることは、自己修正にはとても大切なことなのです。自主経営においてこのサインを感じて誰かがプロジェクトや会議から抜けると、何が起きるかというと、何も起こらない場合があります。誰かが抜けても、誰もそれに気づかずそのまま進めていく。抜けて大正解だったとわかります。あるいは、誰かがそれに気づいて問題提起をし、何が問題かを話し合います。それによって仕事の意義の見直しがされます。本でも触れたSun Hydraulicsという水力発電の部品メーカーは、大きなエンジニアリング部門を有していて、そこでは大きなプロジェクトが常時動いていますが、プロジェクトを選んだり管理するようなやり方ではありません。価値あるプロジェクトかどうかの判断は社員に任せられていて、各自が信念を持ってプロジェクトに従事しています。Valve社についても前回話しました。また会議の場合もそうです。ベルギーの交通省では、会議に意味を見出せなければ退席するよう勧めています。FAVI社では、気に入らなければチームを抜けて新しいチームで働けるようになっています。

またリーダーにとっては、これまでは部下をプロジェクトに振り分けていたわけですが、これからはプロジェクトの希望者を募る仕組みにします。そうすると、多くの志願者が手を挙げる場合もありますが、誰も興味を示さないこともあります。これも小さなサインです。誰も興味を示さないことをやろうとしている場合は、よく考えるべきです。単に意味のない提案かもしれないし、本当は意味があるのにその意義がうまく理解されていないのかもしれません。

オープンスペーステクノロジーをご存知の方も多いでしょう。これも個人の主体性と意思表示を基にした会議の進め方です。また、ホラクラシーもそうで、会議に議題を準備することは不要です。これも今までの会議の常識を覆すものですね。なぜかと言うと、従来のやり方では予め議題が設定され会議前に配布されています。ここでの意図は、会議開始時点では重要ポイントが変わっている可能性があり、その時点での議題点を明確にして会議を始めようとしているのです。他にも例がありますが、要は誰かが従事することを躊躇した時、その裏には何か小さなサインがあるということです。従来の組織にいると、無駄だと思える会議、プロジェクト、仕事がたくさんあります。世の中にはくだらない仕事がたくさんあるし、いろんな人がそれは議論しています。自主経営では無駄な時間をなくそうと仕事するので、「無駄だ」と思ったらそれは対処すべき問題があるということです。ですから、自主経営組織では驚くほど高い業務効率を維持しているといったことが可能なわけです。

 

自己修正型組織におけるリーダーの役割

これまでのビデオから自己修正の重要性やどのように組織の自己修正が実現できるか理解いただけたと思います。ここでは従来の組織から自主経営に移行した際の、自己修正にリーダーが果たすべき役割について話したいと思います。

これまでは、リーダーの役割は問題を事前回避し、また問題が起きた時は収拾する役割でした。自主経営では根本的に異なる役を果たすことになります。つまり、組織が自己修正できるシステムを創る手助けをすることです。とある大学病院のCEOと会った時に私自身も実感したことがありました。このCEOは自主経営システムを取り入れましたが、ある看護師チームのパフォーマンスが下がっているのが気になっていました。彼らが業務量の多さに苦しんでいる一方、別のチームは暇そうにしています。

そこで、従来であればトップダウン的に何人かの看護師を忙しいチームへ振り分けるところですが、古いやり方はしたくなかったので、リソースの余っているチームに行って事情を説明し、どのように他チームをサポートすべきか話し合って提案して欲しいと伝えました。CEOはそれが正しいやり方だと信じていたので、掛け合ったチームが結局なんの提案もしてこなかったことにがっかりしました。チームに再度尋ねると、「リソースが余っているということはなく、ちょうどいいバランスなので問題ありません」という答えだった。CEOはイライラし、この組織は自主経営スタイルに移行するには早計だったのでは?と相談してきました。

自己修正の必要性は現場で見つけるべきものです。人手の足りていないチームと人手の余っているチームの間で見つかるものです。CEOは部外者なので、介入して人手の余っているチームに話しかけても、システムが自己修正を起こすきっかけにはなっていないのです。そこで、両チームから有志で二人ほど出てもらい、お互いの業務量を話し合う場を設ければいいのではないでしょうか。私がチームの一員であれば、上から聞かれたら、「いえ、人手が過剰ということはありません」と答えます。しかし同じ職場の同僚を前にしたら、普段の勤務バランスもお互いわかっているのでそうは言えません。そうして、話し合いによって簡単に解決できたのです。リーダーは、そういった定期的な話し合いの場を仕組んで、チーム自ら解決できる環境を作ってあげることができます。私自身も、これを通して、特に自主経営への移行においてリーダーが果たすべき役割は、組織が自己修正できるように文脈や実践項目を用意してあげることなのだと理解が深まりました。

リーダーにはシステム思考が不可欠であり、また組織にとってこれができるのは他にはいないわけです。もう一つ例を挙げます。同じ組織です。実はこの病院には長いこと自主的に運営してきたユニットがあります。産婦人科ユニットです。その長がユニットを去り、後任がないままにしばらく続いていましたが、問題なく自主的に動いていました。ただ、勤務している者にとってユニットのパフォーマンスが直に感じられず、パフォーマンスが下がっても気にする者は特にいませんでした。組織の運営者としては、どうやったらここを改善するシステムを導入できるかと考えるでしょう。これといった正解はないわけで、クリエイティビティが求められるところです。例えば定期的な報告ミーティングにユニットの助産師から誰か出席してもらい、パフォーマンスを共有してもらうのもいいでしょう。あるいは日々の数値をボードに表示したり、インセンティブを導入したりと自己修正を促すいろいろな方法があるでしょう。

繰り返しますが、リーダーの役割は変わるのです。問題を未然に防ぐことや対処にあたることではなく、自己修正が必要に応じて自然に起こるような仕組みづくりをサポートすることなのです。

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