「ティール組織をどう始めるのか?」と題して、「ティール組織」著者のフレデリックラルー氏による動画の要約をお届けします。
フレデリックラルー氏は書籍のほかに、100を超える動画を公開してくれています。本記事では、その中の「シリーズ2. ティール組織をどう始めるのか?」の要約をご紹介させていただきます。
ぜひご参考にされてください。
▶元の動画「Perspectives on the journey」はこちらから
▶ティール組織を実践するためのティール組織診断マップはこちらから
組織の変化に対する新しい考え方
今日は組織の再開発のための7つのステップをお話します。というのは冗談です。このような質問を良くされますが、7つのステップなどは存在しません。
FAVI社の前CEOにも多くの人が、どうやったのか?ステップを教えてほしい、というようなことを訪ねてくるそうです。彼は「demerdez-vous(自分でやってみたら)」と答えるそうです。
私はこの答えが好きです。計画はできませんし、これがあなたにとって重要なことであれば、自分でやり方を見つけ出せると思います。ただし、この動画では車輪の再発明をしなくて良いように、これまで積み上げられてきた知恵、そして他の人の成功や失敗から学ぶことが出来ます。
多くの人がステップバイステップを求めるのはなぜでしょうか?それは私たちが昔ながらの機械的な世界における変化に慣れているからです。ごとのガイドを求めるのでしょうか?それは、私達が機械的な世界観における変化の捉え方に慣れているからでしょう。すべてことは計画できるし、注意深く計画したほうがいい、そうすれば完ぺきに実行できる、と考えています。
これはもう機能しません。今回は特別に、「ティール組織」のイラスト版にこのことについて書いてあることを読み上げたいと思います。こうして自由に話すよりもわかりやすいからです。この旅をスタートする前、これまであなたの頭に内在するメンタルモデルを問いかけてみる必要があるでしょう。
本の中にこうあります。
”変化に対する考え方をアップデートする必要があります。絡み合った(complex)システムと複雑な(complicated)システムの間には違いがあります。
FAVI社ではこんなたとえが使われています。飛行機は複雑(complicated)なシステムです。飛行機には多くのパーツがあり、それが直線的なロジックに基づいています。ある部品をランダムに取り出したとき、優れたエンジニアならば、まだ飛行機が飛行可能かどうかを答えることが出来ます。
一方で、ボールに入ったスパゲティは絡み合った(compex)なシステムです。飛行機のパーツよりもはるかに少ないパーツしかありませんが、スパゲッティを一本引っ張ったらどうなるかは、世界で最も優れたコンピューターでも予測で来ません。
私たちを支配しているメンタルモデルは、組織は飛行機のように複雑な(complicated)システムであるという隠れた仮定から生まれています。この場合、分析と計画があれば、やりたいことが実現します。
しかし、組織はスパゲッティのような絡み合った(complex)なシステムなのです。だから様々な試みが失敗するのです。では、どうすれば組織を変えられるのでしょうか?それは最初のステップを慎重に選ぶこと。場合によっては次のステップも考えても良いかも知れません。
そして、組織の変化に耳を傾けることです。スパゲッティのたとえに戻ると、スパゲッティの束をほどきたかったら、まずいろんな角度から見てみて、最も良さそうな一本をひっぱります。そして、絡まってしまったら、別の角度から見て、違う一本を引っ張ります。
組織は複雑なシステムなので、たった一つの変化であっても、結果がどうなるかが予測できません。ですから、ひとつかふたつの取り組みを行うこと。
事前に計画することで安心感が生まれるかも知れませんが、それは幻想でしかありません。痛みの伴わない変化はありません。バランスが崩れたり混乱したりを繰り返します。
完ぺきなプランが必要だという人たちからの批判に耳を貸さないことが大切です。”
リーダーが出来ることは、組織を観察して、どこから始めるかを問うことです。そして最初のステップを取り、何が起こるかを観察し、次のステップを取ることです。
四象限:インテグラル理論
私達には傾向や盲点があります。この話をするために、アメリカの思想家、ケン・ウィルバーの四象限を引用したいと思います。組織で起こることすべては4つの観点から見ることが出来るというものです。
一つ目の視点は、外側から見ること。計測出来たり、観測できたりするものです。二つ目の視点は、内側から見ること。感情や考えなど、測定できないものです。
もう一つの軸は、個別の事象として見るか、集合体として見るかです。
これをFour Quadrants(四象限)と呼んでいます。
組織で起こることをそれぞれのレンズから見ることが出来ます。ほとんどの人は、どれかを重視する傾向があり、どれから盲点になってしまうことがあります。それを自覚して、他の視点からも物事を見ることが大切です。
コンサルタントやコーチは、この中のひとつの象限だけ扱う人もいます。企業文化の問題とか、報酬制度の話などです。しかし、実際には、すべてのことは、これら4つの側面を持っているので、どの視点から見ることも等しく重要なのです。
たとえば、CEOが信念として、成績優秀者は、お金だけで動機付けされる、と考えているとします。すると、そのCEOは、システムの側面だけから見て、報酬制度を作ったりします。一方で、そのことを「態度」の視点から見ると、他の人との競争を促すことになってしまいます。それも悪いことではなく、それによって、もっと働きたいと考える人もいるかも知れません。
いずれにしても、この4つはそれぞれ連動しているので、あなたがこの中で、いつも重視するものはあるのか?いつも盲点になるものはあるか?をぜひ考えてみてください。
例を挙げてみましょう。セルフマネジメントを始めてみたが、みんな遠慮してお互いに真摯なフィードバックが起こらないとします。そのときにどうしましょうか?
多くの人は、四象限の上に当てはまることをしようとします。トレーニングをして態度を変えたり、マインドセットを変えたり、といったものです。
またはフィードバックの文化を作るための経営チームが模範を示すとか、みんな仕事に責任を感じていないからシステムを変えようとか。
そのように、あなたのアイデアは四象限のどこかに当てはまると思います。自分の傾向や盲点がわかったら、組織内の他のリーダーたちとも共有し、話し合ってみてください。それぞれみんな違いがあると思います。私の場合、文化に盲点がありますので、そこに強い人がいたら一緒に取り組めます。
また、もしあなたにコーチがいるならその人にどんな傾向があるか?を見てみましょう。コーチが特定の分野に注目しすぎて、他のところを見落とさないように気をつけてましょう。
HolacracyOneのブライアン・ロバートソン氏は、システムに強い傾向があります。彼らはトレーニングをするときに内面を扱わないのです。
態度やシステムだけに注目していると、深い会話がなかなか起きなくなります。以上のように、この四象限を等しく扱えるかを考えてみましょう。
ティール組織をどこから始めるか①
組織のトップにどれだけやる気があっても、どこから始めるべきか迷ってしまう人がたくさんいます。
そこで、何から始めるかを明確にするためには次の2つの問いについて考えてみてください。
1つ目は、「組織のどこに”痛み”があるのか?」「どこにエネルギー(成長の源泉)が留まっているのか?」そして「現在の組織の仕組みの限界を超えたエネルギーはどこにあるのか」を考えることです。
例えば、ある会社で予算作成に非常に多くの時間と労力を割いて、組織の全員にとって予算作成が悪夢であるとすれば、その組織において取り掛かるべきところは予算作成となります。
また、ある病院では整形外科手術が非常に難しく、複雑で、トップによるマネジメントが難しいという問題がありました。この場合は整形外科チームにセルフマネジメント適応してみるのが良いでしょう。
更に、過去に経営トップの四人に権力が集中しすぎている不動産会社がありました。どの国に、どの街の市場を開拓するかどうかを四人だけで決めていたのですが、一旦セルフマネジメント組織に変革し、意思決定権を広く分散させたところ、売上は右肩上がりに大きく成長しました。
このように、組織のどこに痛みがあるのか、どこに成長を滞らせる要因があるのかを考えてみると、変革を始めるべきところが見えてきます。
2つ目の問いは、組織全体ではなく、経営トップだけに当てはめて考えてください。
「あなたのどこに痛みがあるのか?」「あなたは何を望んでいるのか?」「あなたは一体どこにいるのか、何者なのか?」
あなたが当たり前に経験している日常の慣習、つまり組織の仕組みは最終的に非常に虚無的、もしくは攻撃的になるかもしれません。
例えば、人事評価システムにおいて社員を評価する時、ルールに乗っ取って行っても自分が納得できない場合は、システム自体を変えるべきでしょう。
またクライアントとのミーティングで、経営トップのみが出席している時に、実際にプロジェクトを進めていたチームがその場にいないことに違和感を覚えるかもしれません。その場合はそこから変えていきましょう。
どんなに小さなことでも、自分の望みと違う/痛みを感じることがあるならば、そこに着目し、組織の仕組みをより良いものに変えていきましょう。
ビデオの2.1でも言ったように、組織の再編成には完璧なプランは必要ありません。
ただ、気づいたことから始めていけばいいのです。手探りでやってみながら、全体をより良いものに少しずつ変えていくのが大切です。
上記の2つの問いは、そう言った気づきを与えてくれるでしょう。
ティール組織をどこから始めるか②
組織の変革をどこから始めるべきなのか、の2回目です。
従業員が100人以上の企業だと、一気に全てを変えるのは非常に難しいです。
この方法では、組織を機械ではなく、生き物としてとらえるため、トップダウンで一気に物事を進める方法は取りません。
それでは、具体的に役立つ4つの始め方を紹介します。
1つ目は、組織の一部(Pilot)でのテストを行うやり方です。
一気に組織全体に新しい制度や方法を適応させるのは難しいため、まずは組織の一部でテストを行います。
Pilotの選び方は、2.3でも紹介したような組織の中で最も痛みを抱えているところです。そういったところには改革の需要があるため、快く協力してくれる社員もいるでしょう。
しかしこの時に注意して欲しいのが、Pilotでテストすることを、リスク回避の施策だと思わないで欲しいということです。
つまり、「組織全体を同じ方法で一気に変革するのはリスクが大きすぎるため、まずは一部でテストをしてうまくいったら全体に同じ方法を適応していく」、というマインドセットでは従来の機械的な組織論と変わりません。
この方法では組織は「生き物」として認識し、更に一番大切なのが経営者が一番正しいと思う方向に組織を変えていくことなので、リスク回避の視点ではなく、組織にとって正しいこと/経営者が理想とする組織を作るためにやるべきことをやる、という視点でPilotでのテストを始めてください。
2つ目のやり方は、一つの特定の制度、例えば新しい予算プロセスや人事評価システム、を組織全体に適応させることです。
ここで大切なのが、この新しい制度を一緒にデザインするボランティアグループを募ることです。
このボランティアグループは巨大であればあるほど良いです。なぜかというと、より多くの人が集まれば集まるほど、より多くの社員が新しい制度を支持してくれるからです。
そしてここでボランティアと作り上げた制度は、一度作ったら終わりではなく、どんどん改善を続けていくことが重要です。
3つ目の方法は過去の事例から得たアイデアですが、既存の会社の他に新しい会社を作り上げ、1から組織を作っていくやり方です。
新しい理想的な組織を作り、既存の組織の事業をどんどんそちらに移行していくことで、既存のシステムを変革する必要が無くなります。
確かに大きい会社で突然そのミニバージョンを作るのは難しいことですが、例えば事業の一部だけを新しい組織に移行させルところから始めれば、できないこともありません。
4つ目の方法は、組織全体に実験を呼びかけ、促すやり方です。
特に規模の大きい会社では、新しいことを一気に全体に適応させるのが非常に難しいです。
そこで、組織全体をセルフマネジメントに移行させたい趣旨を各ユニットに伝え、それぞれでテストを行ってもらうよう促します。
ここで理解しておかなければいけないのが、各ユニットで物事が変わるスピードは違うということです。
人はそれぞれ違うアプローチを取ります。そのため、あるユニットが他のユニットより成功しているということが起こるのです。
そうなると、うまくいっているユニットから学ぼうという組織内の動きが始まり、その方法が広がり、発展し、確立されていきます。
そして、組織内で一つの方法が広く行き渡っていることが確認できたら、それを仕組みとして標準化しましょう。
以上が4つの始め方の例です。
大きい会社ではこれらのやり方は恐らく複数を組み合わせて行うことになるでしょう。
実験と標準化の間のバランス
組織を変革する時に、必ず出会うであろうテンションがあります。実験(experimentation)と標準化(standarization)の間のバランスです。
無意識に遭遇することもありますが、意識していた方が意味があるでしょう。
私たちは皆全てが標準化されているはず、されるべきであるという観念を持っています。制度やプロセスは組織内で統一し、変更する場合は、一部で先に実験をした後に全員に適応するというように。
セルフマネジメント組織でも、そのように初めから統一感を持って新しいプロセスを組織全体に標準化することはできます。
しかし、ほとんどのセルフマネジメント組織は違うルートを辿って組織を再発明してきました。
彼らは人々に向かう基本的な方向性を示した後、人々に様々な実験をさせました。
しばらくの間は、同じ方向を向いて同じゴールを目指しながらもやり方はそれぞれ違い、うまくいくところもあれば苦戦するところもある、という状態が続きます。
つまり、実験と標準化の間に緊張感があるわけです。
実験のメリットは、多くを素早く学ぶことができることと、人が参加しているという当事者意識を持ち、上から強制する必要がないため、より多くのエネルギーが生まれることです。
一方、標準化にもメリットがあります。
実験状態が長く続きすぎると人はだんだん混乱してきます。
そのため、一定期間に渡る実験の後には発展したプラクティスを標準化する価値があります。
実験の適切なタイミングと標準化の適切なタイミングを見極めてください。
この時に大切なのが、リーダーとしての個人の好みでタイミングを決めないことです。組織が本当に標準化が必要な時がいつかを聞いてください。
私はリーダーが標準化を早まりすぎてしまうトラップにかかった組織をいくつか見てきました。社員が十分に実験から学びを得られておらず、未だにトップダウン式の形を残してしまうのです。
逆に、標準化を全く行わなかった組織では、社員は何が起きているのか、どうしたらいいのかわからず混乱し、最終的には標準化が悪であるという間違った観念が組織に根付いてしまいます。
しかし、組織には明瞭性が必要です。ゲームのルールがわかっている方が仕事は断然楽です。
覚えていて欲しいのは、この新しい世界においては、これらのルールは暫定的なものであり、いつでも変えることができるということです。
私が伝えたいのは、標準化すべき/すべきでないという概念を持つことより、現状を見て、組織の声を聞いて判断してすべきであるということです。
まずは実験し、イノベーションを起こしてから、そこに痛みやストレスが見え始めたら、その時が標準化を進めるタイミングです。
しかし、全く標準化しなくていいものも存在します。
これは私にとっても新しい考え方でしたが、オランダのビュートゾルフ(ティール組織の事例)が決まったパフォーマンス評価のプロセスを持っていないことから、この考え方に気づきました。
ビュートゾルフでは、年に一回全員で集まってお互いにフィードバックを行うというシンプルなガイドラインのみが存在します。しかも、そのやり方はチーム次第で、組織全体に標準化されたプロセスは必要とされていないのです。
標準化が価値を生み出すのは、組織全体で統一する必要がある時のみです。
例えば、役職名。初めはチームごとに役職名を決めさせて実験させますが、それぞれのチームで役職名が違うと、同じ役職名の違うチームの人と話したい時、誰と話せばいいかわからなくなってしまいます。
この場合は役職名を標準化する価値があります。
しかし、チーム内で完結できる場合は組織で標準化する必要はありません。
私たちは常に規模の経済の考え方で標準化を過大評価しがちですが、物事を概念化するのはやめて、常に現状を見て、実験すべきか標準化すべきかを判断するようにしましょう。
とりあえずやってみよう
私がこの経営マネジメントの研究を始める前までは全く聞いたことはなかったけれど今はしょっちゅう頭に浮かぶ二つのフレーズ、モットーがあります。
“Good enough for now and Safe enough to try. (今はこれで十分、とりあえずやってみよう)”
経営者はよく組織は変わり続けないといけないというが、その言葉の裏には、変えるなら完璧な計画が必要で、一度それを実行したら永続していくものだという伝統的な考え方があります。
しかし、完璧な計画を練るには途方もくれるほどの長い会議や経営トップ間での多数の意思決定などが必要になります。このような完璧性にこだわるマネジメントが従来のマネジメントを決定づけてきましたが、時代の違う現代では、異なるマネジメント方法が必要とされます。
そこで、上記のフレーズが登場してきたのです。
初めに完璧な計画を作るのではなく、試行錯誤を繰り返し、違うグループに違うものを実験させ、結果の良いものを分析するようなプロセスが今は必要なのです。
もし製造会社で製品を1000個作らなくてはいけないならば、はじめからミスのない設計書が必要ですが、ここで話しているのはイノベーションのプロセスです。
イノベーションにおいては初めから合格ラインが決まっていては意味がありません。なので、今はこれで十分で、更に挑戦/改良の余地があるという考え方が大切なのです。
そしてその実現には、多くの人を巻き込むことが必要です。この時に数人に強制するのではなく、Invite、招待して、協力的なボランティアとしてきてくれる人と共に行うのがいいでしょう。
人事評価システムの改革を例にとると、従来のやり方では、人事部やコンサルタントや役員を交えて一気に方針を決め、完璧な計画を立ててから、全社同時にシステムを変更する方法を取っていました。
しかしたとえ新しい人事システムが昔のものより良くなくても会社が破産することはありません。
これが”This is safe enough to try”の定義です。つまり、会社が潰れるわけではないので何時間も計画に時間を費やすのではなく、いくつもの施策をとりあえず実行してみて、結果を見ながら改善していけば必ず非常により良いものが生まれるということです。
20人でも30人でも、協力的なボランティアを招待し、みんなで知恵を合わせれば今よりもいいものが出来上がります。そこで聞いてみてください、”Is it good for now?(今はこれで十分かな?)”。
十分だったら、人を招待して新しいプロセスを試してもらいましょう。
全員に新しいプロセスを強制するのではなく、古いものがいいか、新しいものがいいか選ばせて、更に自由を与えるのもいいでしょう。
もしくは、ビュートゾルフ(オランダにあるティール組織の例)のように、全チームに年に一回フィードバックの会話を設けるよう義務付けるのもいいかもしれません。この時のやり方はチームごとに決めてもらいましょう。
以上の2つの基本観念(Good enough for now, Safe enough to try)は、恐怖が基になっている完璧主義から、「とりあえずやってみよう!」やってみれば今よりは良くなる、という考え方に頭をシフトしてくれる。
車輪の再発明に価値はあるのか?
ティール組織の本のためのリサーチを行なっている時に、とても非効率的ですが面白い事実を発見しました。
苦戦しているチーム、車輪を再発明しているチーム、そしてミスを犯している人々には価値があるかもしれないということです。
確かに、人はミスを避けたがるし、もしも苦戦しているチームがいたらより生産的に仕事ができるよう助けてあげる方がいい、という認識が一般的です。
しかし、その考え方はティールに向けた組織変容においては必ずしも正しくないかもしれません。
こういった考え方に出会ったのは、ビュートゾルフ(オランダの有名なティール組織)の事例からです。
ビュートゾルフが2007年に作った最初のチームでは、コーチが手厚すぎるサポートを与えていたため、彼らは仕事において苦戦することがほとんどありませんでした。
しかし同時に、彼らは苦戦からの学びを得ることもなかったのです。
その結果、後にできた新しいチーム、サポートが比較的手薄で仕事において何らかの苦戦を強いられたチームと比べて脆いチームとなってしまいました。
このことから、ビュートゾルフでは40〜50のチームに対してコーチ1人だけを付けることで、チームが苦悩や議論を通じてセルフマネジメントを理解し、チームとしてより一致団結して成長していけるよう仕組みを改善したのです。
もう一つの事例は、タイヤ製造業のミシュランです。
ミシュランは、工場で働く70,000人の製造者をセルフマネジメントチームに変容しようとしました。
彼らが行なったのは、製造チームに原則だけを教え、具体的なやり方は教えないことでした。
そのため、各チームは実験を行なってより良いやり方を開発する必要がありました。
2年間このような実験が数多くの工場で繰り返され、チームはそれぞれ多くを学び、成長していきました。
このように原則だけを教えて、具体的なやり方はチームに考えさせることは、採用のプロセスなどでも使えます。
例えば、スキルだけでなく組織としてのビジョンや目的を共有してくれる人間を採用するという原則だけを採用チームに教え、やり方は任せるというように。
しかし私はこの時、「なぜ上手くいく方法を知っているのに、それを教えないでわざわざ試行錯誤させるのか?」という疑問を抱きました。
それに対し、ミシュランに務める友人は言いました。
「なぜなら、そこには完了されなくてはならない真のUnlearning(学んだことを捨て去ること)とRelearning(再び学ぶこと)があるからだよ。そしてそれには自分でやり方を見つけなくてはいけない時の苦戦が必要なんだ。」
人が完成された方法を与えられる時、そこにはその背後にある世界観やものの見方を学ばず、単純にその方法に順応してしまうというリスクがあるのです。
そのため、人に原則だけ教えて具体的なやり方を教えず、苦戦させ、考えさせ、学ばせることには価値があるのです。
しかし、このような考え方は必ずしも常に上手くいく訳ではありません。
というのも、時には実験を繰り返させてもなかなか思い付けない非常に巧妙な方法があるためです。
このような場合は具体的なやり方を教えた方がいい訳ですが、ここでもチームに学びを与えるために、複数のやり方を教えて試させ、一番いい方法を研究させるのがいいでしょう。
もしくは、原則だけ教えてしばらく実験させた後に、一番いい方法を教えることでもチームに学びの時間を取らせることが出来ます。
以上の”苦戦”に関する考え方は、私のリーダーシップに関する考え方にも影響を与えました。
一般的に直ちにミスを正すことがリーダーの美徳だと思われていますが、チームの成長のために、ミスを正す最適なタイミングを見計らうこともリーダーにとって必要なことではないでしょうか。
多くの組織で時計の振り子のように両極端な2つのパターンを試していました。
1つは官僚制で非常にルールに厳しいもの、もう一つは全くルールが存在しないゆるゆるな組織です。
どちらの組織も最終的に上手くはいきませんでしたが、そういった実験から組織は学びを得てより良い組織に変わっていきます。
恐らくこの時計の振り子の動きがUnlearningとRelearningの自然なプロセスなのかもしれません。
私からのお願いは、ミスを毎回直ちに正すようなリーダーシップを取るのではなく、まずは苦戦や試行錯誤に価値があるのかどうかをじっくり考えて見て欲しい、ということです。
従来のリーダーシップ像に対し疑問を抱き、チームに苦戦させることが学びに繋がるのかどうか、”車輪の再開発”に繋がるのかどうかを一度考えて見てください。
ティール組織への変容の旅に名前は必要か
ひょっとするとあまり重要でない質問かもしれませんが、この組織変容の旅、そしてこの改革の最終地点にあなたはどんな名前を付けますか?
これは私の意見であり、多くのCEOや経営者が言っていたことですが、プログラムにも目標地点名前は付けない方が良いのです。
もしかしたらあなたはティール組織やアジャイル組織という名前を目指し、プロジェクト名を考えるかもしれませんが、私の確固たるアドバイスは、「DON’T DO IT!」です。
理由は2つあります。
1つ目は、人に明確な目標を与えない方がよっぽど楽だからです。
ベルギーの経産省の変革を先導したローラ・ドゥーは、同僚にいくら立派なプロジェクト名を付けようと言われても拒否したそうです。
なぜなら、そうすると皆んなに銃撃のターゲットとなる像を与えてしまうからだと言います。
というのも、何か明確な目標やターゲットを定めてしまうと、その定義づけややりたい/やりたくない、できる/できないと言ったエンドレスで生産的でない議論が始まってしまうからです。
名前を付けない方が良い2つ目の理由は、名前を付けないことによって、変容のストーリーやフルセンテンスを語る必要が出てくるためです。
何を望んでいて、なぜそれを望むのか、どこに人々を連れていくのかを名前がない分しっかりと文章で語ることになります。
ビュートゾルフ(オランダの有名なティール組織)では実際に、組織形態の名前やコンセプトを語った人はいませんでした。
プロジェクトに名前がつくと、人々はその名前は何度も口にしますが中身は語らなくなります。
逆に、名前がないと何度も中身のストーリーを語る必要があり、そこには大きなパワーが隠れているのです。
確かに、プロセスが長引けば組織内で何らかの名前がつくかもしれませんが、なるべく名前がない状態を保つことが非常に大切です。
人がストーリー、中身について語る時間が長ければ長いほど、変容はより良いものになっていきます。
もちろん、全体像の中の小さなプロジェクトに名前を付けるのは良いことですが、変容の旅全体は一つの名前に集約されるのは相応しくありません。
セルフマネジメントやティール、はたまたデジタライゼーションにしても、大きな変容に一つの名前を付けて一つのボックスに押し込むのではなく、それぞれを生きた状態にする、つまり文章で中身が語られる状態をぜひ大切にしてください。
ティール組織でアイデンティティは無くなるか?
変化は簡単な時もあれば、難しい時もありますが、私たちの生活の中で求められる変化は非常に難しいものです。
その理由は、変化には単なる習慣や行動の変化だけではなく、私たちのアイデンティティの変化も同時に求められるからです。
つまり、自分は何者なのかを問い直す必要があるということです。
特に組織のマネージャーになるためのハシゴを登っていた人にとっては、アイデンティティの変化はとてもわかりやすいものでしょう。
というのも、彼らはマネージャーになった途端、それまで見えてこなかった仕事のクリエイティブさや面白さに気づき、そこにはアイデンティティの変化が伴うからです。
全体性(wholeness)や進化の目的(evolutionary purpose)についても同じことが起こります。
他者との関係の中で安定感を得るために私たちはプロとしてのマスク、つまり仕事の顔を持っていますが、一旦それを変えて、職場で常に自分らしくいることでより深いところで人と繋がることができることを経験すると、その人のアイデンティティは大きく変化します。
職場だけでなく色々な場面で自分をさらけ出すことができるようになるのです。
このように、どんな変化もアイデンティティの変化を伴うのです。
しかし、組織を自立型へ変容させようとする場合は、絶対に変わらないコアアイデンティティについて語ることもとても重要になるのです。
というのも、組織のトップは大きな変化に対して準備ができているかもしれませんが、他の社員はまだそうでないかもしれません。そこで、たとえ組織が大きく変化しても変わらないアイデンティティについて語ることが大切になるのです。
コアアイデンティティとは、自分たちが何者であり、どんな強みがあり、どんな歴史があるのかということであり、それらは今後目指す未来の組織にとって貴重な財産となるでしょう。
なので、コアアイデンティティについて強調し続けることにはとても価値があるのです。
たとえば、人々が常に組織に大きく貢献してくれる素晴らしい組織ではセルフマネジメント組織になる準備が十分にできていて、ヒエラルキーや階層など必要なく、人がコミットするという文化、アイデンティティを維持すればそれで良いのです。
同じような話で、注目してみるととても面白いのが、現在の状態のどこに既に未来があるのでしょうか?
つまり、組織の未来の姿を人に見せた時、変化を恐れる人はたくさんいる状況で、現在の組織の中で既に理想の未来が実現されているところが少しでもあれば、それは大きな力となるということです。
なりたい組織に近づくために起こる変化の中に変わらないものを見つけて、それを人々に見せることで変化の推進力となるからです。
ここまで変わらないアイデンティティと現在の組織の中に既に存在する未来について語ることの重要性を説いてきましたが、実は組織のリーダーにとってこう言ったストーリーを話すことは簡単なことではありません。
というのも、大抵の組織のリーダーは常に変化について語りたいからです。
もちろん変化とはとても重要なストーリーの一部ですが、上述したように変わらないものについて語ることも同じくらい大切です。
もしあなたが経営者で、変化しないことについて語るのが難しいと感じるなら、ぜひ同僚と話してみてください。
店を歩き回ったりして、会議以外で人と会うようにし、組織の変容のストーリーを話してみてください。
そうすることで、自然と変わらないものがなんなのか、組織のアイデンティティとは何なのか、そして未来の組織の片鱗が見えてくるはずです。
私のアドバイスは、「探偵になれ!」です。
多くの人と話をして、組織を理解し、ストーリーを捉えることで、この変容の旅がリーダーにとっても、そして組織の人々にとってもより楽になることでしょう。
蓄積された争いが爆発した時
多くの組織がこの変容の旅でぶつかるであろう問題についてお話しします。
初めは少し驚くことかもしれませんが、実際にはあまり驚くべきことではないのです。
組織が自律型になることで、人はそれまで感じていた恐怖や服従への圧力を感じることがなくなり、より自由に自分を表現するようになります。
すると、突然組織の中に争いや怒りの波がやってきます。
そして変容によって何が美しいものが出来上がると期待していたリーダー達はとても驚いてしまい、時に組織の変容を後戻りさせてしまうことがあるのです。
しかしこの場合の対応の仕方は、抑制するのではなく受け入れることなのです。
一般的にリーダーがこの問題に対して、2つの衝動にかられます。
1つは、やり過ごして前に進もうとすることです。
もう一つは、すぐに解決しようとすることです。
私たちは問題が起きたらすぐに解決することに慣れすぎています。
しかしすぐに解決しようとすると、人々が怒りや争いを起こしているのはただ聞いて欲しいだけだからである、というか本質を見逃してしまいます。
人々のこういった行動は、ある意味テスト、試練なのです。
つまり組織が本当に変わったのかどうか、本当に今まで言えなかったことを言ってもいい組織になったのかどうかを人々は試しているのです。
そのため、この時はとにかく聞いてください。
聞く時のポイントは、文句や不平の裏にある真のニーズを探ろうとすることです。
どんなニーズが満たされていないのか、何が彼らにとって合理的でないのかを聞いてください。
もしかしたらある人は、自分に影響を与える意思決定について十分関われていないことに対して文句を言っているかもしれません。
はたまたある人は、チームとして一緒に働く人が好きではないから自分で一緒に働く人を選びたいのかもしれません。これも非常に合理的です。
そして聞いてもらうことには大きな力があるのです。
人は深いレベルで人に聞いてもらいニーズをわかってもらうと、怒りや争いは急におさまるのです。
そこで初めて問題解決のフェーズに移り、向かいたかった方向へ進んでいけるエネルギーを得られるのです。
意思決定について十分関われていない、情報をもらえていないと訴えていた人には、例えば議事録を組織全体で共有するなどして問題を解決し、はたまたチームメイトを勝手に決められるのが嫌だという声に対しては、ビュートゾルフ(オランダで有名なティール組織)のようにチームメイトを自分で決め、変えられる制度を整えればいいのです。
このようなプロセスによって、組織内の争いや憤りは何か生産的なものに変わっていくことができます。
まずは、人の声を聞き、そこに潜む合理的なニーズを探ることから始めましょう。